生活雑思

“全面顔出し”で、なぜか記憶の扉が開いた
生活雑思 · 01日 5月 2023
「マスク外した顔が、自分が思っていたより良かったのは十人に一人だった」と、辛口の友人は言い切った。 「確かに! 私も去年、色白で目元涼しげな中年の女性の写真を撮ることがあって、マスクはずしてもらったんだけど、予想してた顔とあまりにギャップがあって・・・。具体的には鼻の下がすごく長くて。人の顔ってバランスなのかもね」...

生活雑思 · 07日 8月 2020
夏が来ると思い出すのは、小4の夏休み。僕は突然立派な肥満児になっていた。原因はコメの食い過ぎ。それまでは痩せていたのに、夏休み中、朝昼晩のどんぶり飯と、おやつにはぶっかけ氷の冷やし茶漬けを食べ続けたからだ。ガス炊飯器にはいつもたっぷりご飯があり、それでも僕ら兄弟が食べ物のことで喧嘩すると、「あんたたちに、ひもじい思いをさせとらん」と、オフクロに強く叱られた。 オフクロは南洋のセレベス島で生まれ、幼年期に預けられた東京で辛い思いをした。預託先の家の子どもたちが食パンを食べているのに、自分たちはパンの耳しかもらえなかった。悲しくなると、弟と二人で屋根の上に登り、南の空をいつまでも眺めていたという。 そんなことは知らない能天気な小4の僕は、コメを食いまくった。その結果、押しも押されぬ肥満児になったが、ここで思わぬ展開に。新学期、担任の女先生に褒められたのだ。 「夏痩せするのが普通なのに、伊東君は夏太りして偉かねー」 この鶴の一声は、その日の学級委員長選挙に大きな影響を与えた。なんと僕が選ばれてしまったのだ(後にも先にもこの一度だけ)。 * * * 夏の暮れなずむ公園で、小さな女の子が自転車の練習をしていた。お父さんが自転車を支え、お姉ちゃんが励まし、母親はその様子を動画に撮っている。父親が支えていた手を放す。「できてるよ。できてるよ」とお姉ちゃんが連呼する。ハンドルを握る女の子の緊張した顔がみるみる笑顔に変わる。初めて自転車に乗れた喜びが溢れて、こぼれそうだ。 そう、僕の中にもよみがえってきた。何か初めてできたときの、何物にも代えがたい喜びが。あの小4の夏、初めて逆上がりができたときの感激が。鉄棒は肥満児にとって最強の天敵。でも、学級委員長たるもの逆上がりの一つもできないでは格好がつかない。そこで、僕は夜な夜な特訓を始めた。小学校の隣にある高校の塀を乗り越え、真っ暗な校庭の片隅にある鉄棒で一人で練習した。泣きべそをかき、物言わぬ鉄棒に当たり散らしながら。もう無理とあきらめかけたとき、突然、重いお尻がくるっと上がったのだ。その瞬間の嬉しさといったら。真っ暗な校庭の片隅で、一人小躍りして叫んでいた。この家族は女の子の喜びを静かにわかちあっていたが、夕食のときはこの話でもちきりだっただろう。そんな楽しい一家団らんを想像していたら、昔、宮崎で見かけた自転車店の謳い文句を思い出した。その「ビールのつまみに自転車をどうぞ」というコピーは、こういうことだったんだ。その夜、僕も”逆上がり”をつまみに一杯やった。

生活雑思 · 20日 7月 2020
1年ほど前、自宅の階段から落ちた。築60年の木造二階の家をリフォームしながら暮らしているが、狭く急な階段は昔のまま。その上から2段目に、掃除機の刷毛ノズルを落としたのを知らずに降りてしまったのだ。パイプ状のノズルの上にのった足はつるっと滑り、空中に投げ出され、階段の角で尻を強打。次の瞬間、脳裏をよぎったのはたった今TVで観たばかりの「タイタニック」の甲板から海へ真っ逆さまのシーン。 やばい!あるかないかわからない体幹(インナーマッスル)に力を込めた。下にいたカミさんは、絶対、頭から食器棚に突っ込むと思った。 しかし、嘘みたいに僕の両足着地が決まり、「凄い!」と目を真ん丸にしている。そんなカミさんにお尻を見てもらうと、出血や骨折はない。尾骶骨あたりは痛むが、連休で病院は休みなので、結局、医者には診せずじまい。それから1年。日常生活には支障はないものの、電車などで長いこと座っているとお尻が痛む。仕事も座業中心で、下半身の血の巡りも悪くなったような気がする。 そんなとき、浅草の安売り屋で見つけたのが、ハニカム構造のゲルシートクッション。無重力(ゼロG)の宇宙空間の座り心地が謳い文句で、値段も1390円と激安。二つ買った。お尻もいい塩梅だ。ところが2週間ほど経つと、お尻のある箇所が痛くなってきた。長時間の座業で、あの部分の血流が滞り、うっ血したのかもしれない。やはり激安のバッタ物は見た目が似ているだけなのか。そう、ゼロGでイボGになってしまったのだ。薬を買いに薬局にとぼとぼと向かっていると、なぜか以前TVで見た中国の若い女性作家のことを思い出した。彼女は高さを変えられるデスクで立ったままノートPCに向かっていた。   そうか、ゼロGがダメなら、立ったままでやればいい。僕はB5のノートPCにディスプレイとキーボードを外付けし、無線マウスで仕事をしている。立ち仕事バージョンを完成させるべく、家中のガラクタを引っ張り出した。結局、調理台の下に収納する2段式ラックと木箱を重ねた上にディスプレイを、折り畳み式の小さなテーブルの上にキーボードとマウスを載せて準備完了。以来、1カ月以上立ったままPCに向かっている。もちろん、30分も同じ姿勢で立ったままだと結構疲れる。そんなときは、お尻を前後左右に振ったり、無理せずに少し座ることにしている。おかげでイボGも改善し、あるかないかわからなかった体幹も鍛えられているような気がする。加齢に伴う筋力の低下は遅かれ早かれ誰にもやってくる。この立ちポジションが筋力低下を食い止めることを願い、これからずっと続けようと思う。「1日6時間以上座っている人は、3時間未満の人と比べて、早期死亡のリスクが19%高くなる」という研究データもあることだし (邦彦)。

生活雑思 · 09日 4月 2020
緊急事態宣言が出る数日前、町会のお達しが回ってきた。例年5月開催の三社祭はとりあえず10月17~19日に延期するとある。仕方がない。1トン近くある本宮神輿を100人を超える男女が半纏越しとはいえ背中と胸を強く押し付け連なり、大声で唾を飛ばしまくりながら渡御するのだ。いくら屋外とはいえ、これを濃厚接触といわず何といおう。浅草神社の氏子にとって三社祭は最大の楽しみであり、肩に食い込む神輿の重さに「今年もなんとか無事に担げました」と、感謝の気持ちを感じる大切なハレの日だ。残念だけど仕方がない。 で、気分転換に三社祭の手ぬぐいを引っ張り出してきた。まずは勇ましく鉢巻きに、鼠小僧のように口まで覆ったり(意外と息苦しい)、マスク代わりの覆面と、あれこれ試しつつ、行きついたのは、ほおかぶりだ。いかにも巣ごもりしてます、という風情が気に入った。ほおかぶりのままパソコンに向かうと、集中力も増してきそうだ。春の陽気に誘われて、このままま散歩に出てみようかな。コスプレというほどでもないけど、変なおじさんが歩いてた、と子供が笑ってくれるかもしれないし、人も近づいてこないから一石二鳥だ。そうな感じで、巣ごもりを楽しんでいきたい。(邦彦)