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吉原桜に雪が降る

吉原弁財天、弁天池の傍らに佇む吉原観音。満開の桜に覆われる春、季節外れの雪が降る。

週末は外出を控えてと、都知事が言ったその日曜、東京は雪になった。その前日に通りかかった吉原弁財天の満開の桜が目に浮かんだ。あの桜に雪が積もる様子は、どんなだろう。

かつてあの辺りは新吉原という遊郭で、吉原弁財天のある場所には弁天池があった。関東大震災で焼け出された遊女たちがこの池に飛び込み、500人近い死者を出す悲劇に見舞われたところだ。震災の3年後、慰霊のために吉原観音が建てられ、今も花が絶えない。

 

観音様の背後は満開の桜に覆われ、見上げた自分の顔に雪がパラパラと降りかかる。桜をバックに凛と佇む観音様の顔は、クールで無表情に見えた。私がよく参拝する待乳山聖天の観音様は微笑んでいて、いつも「大丈夫」という声が聞こえる気がするのに、この観音様からは「何を怖がってるの」と、突き放された感じさえした。不安で覆われた今の気分を変えてはくれなかったが、その代わりに超越した何かを感じた。亡くなった多くの遊女を供養するために作られた観音様は、90年以上この地でたくさんのことを見続けてきた。今のようなことでは動じないのか。ひたすら時が過ぎるのを待てということか。東京で3月下旬に1センチ以上の積雪があったのは32年ぶりだというが、吉原の満開の桜にも観音様にも雪が積もることはなかった。(悦代)

コメント: 4
  • #4

    深川 和郎 (日曜日, 05 4月 2020 10:50)

    三十二年前は新入社員の春でした。幸いに会社は今も同じですがお昼休みにお弁当食べながら季節外れの雪を眺めた日は今も記憶の中にあります。
    桜と観音様には罪はないと感じています。
    今は観音様と同じように静かに見守るしかないような気がします。

  • #3

    カネコメグミ (土曜日, 04 4月 2020 17:53)

    「桜」と「雪」が同時にある光景。観音様の表情の違い。抗うことのできない現象の受け止め方も、心の持ち方で決まるということ。「何を怖がってるの」と受け止めシャッターをきった悦代さんの作品、そして今後の心の向かいように、私も襟を正す思いです。

  • #2

    渡辺(あ) (金曜日, 03 4月 2020 14:57)

    何かを超越した存在と向かい合うと、心がしーんとしますね。手を差し伸べてくれるわけではなく、ただただこの状況を見ている。「なかなかやるな」と言ってもらえるよう、みんなで力を合わせて乗り越えたいです。

  • #1

    平林 秀介 (木曜日, 02 4月 2020 18:31)

    芸術的、文学的、歴史的なお仕事、自分には全くない分野なので羨ましい限りです。昨年7月から無職になり、主夫として家事全般をしながら、冬場は富所さんや天野さんの別荘にお邪魔したり、OB合宿で上村さん他の大先輩方と滑ったりしています。最高です。