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セミの一生に思いを馳せたこの夏

 今年の夏、夫以外で一番顔を合わせたのはセミである。朝はミンミンの鳴き声で覚醒し、夕にはアブラゼミに近づきすぎて、おしっこをひっかけられたりしている。セミの抜け殻の写真もよく撮る。同じように見えるが、ひとつひとつ違う。特に違うのが目。正確にいうと脱皮したあとの目を覆っていた膜だが、透明なもの、濁ったものと色々だが、どれもウルトラマンに出てくる怪獣の目みたいで、面白い。

 こんなにもセミ好きになったのは、数年前にアブラゼミの脱皮を見てから。夕方の散歩中、知り合いのおじさんが孫とセミとりをしていて、「これ、羽化直前の幼虫。一晩カーテンにつかまらせておくと、朝、成虫になってるよ」と、1匹くれたのである。よくわからないけどやってみるか。そして、その晩の出来事は、本当に忘れがたい思い出になった。

 茶色の殻がパカっと割れて、中から這い出てくるんだげと、バック転のようにのけぞって、頭から出てくるのだ。要するに天地が逆さまの状態。とにかく、その顔がかわいい。目はクリクリとした黒目で、体の色は透明で白っぽく、目の横にはダンボの耳ようなものがある。実はこれは羽になる部分。その後、のけぞった体を戻しながら(すごい腹筋?)、羽を少しず開いてセミの形に。最初に顔を出してから約20分後、きれいな黄緑色の羽をしたセミが殻の上に覆いかぶさっていた。徐々に体全体が黒ずんできたが、ここで就寝。翌朝みたら完全に普通のセミになっていて、窓を開けて、「元気でね~」と解き放ったのである。とにかく、神秘的な出来事だった。

 アブラゼミは6年も土の中にいて、一生のうちで4回脱皮するという。自分が見たのは成虫になる前の最後の脱皮だったわけだが、せっかく、地中に出ても1~2週間の命と言われている。環境が整えば1か月という説もあるけど、どちらにしても地上の時間は短い。その限られた時間に子孫を残すという役割が課せられている。成虫のときにしか卵を産むことが出来ないからだ。交尾が終った雌は枯れ木に産卵管を差し込んで産卵する。雄と雌の出会いは雄が鳴くことから始まる。雄の腹腔内には音を出す発音筋があり、1秒に2万回も振動、さらに音を大きくする共鳴室まである。あんな小さな体なのに、すごい音量で、なんかやけになって鳴いてるような気がしていたけど、求愛だったのね~。

 セミの一生は儚さの象徴みたいに言われるけど、あの脱皮を見てからそう思わなくなった。暗い土の中で色々な準備をして明るい世界へ。そして、子孫を残して夏の終わりに死んでいく。自分の一生をちゃんと全うしていて潔い。それにしても、あの顔は私には笑ってみえた。天地逆さまだけど、初めて明るい世界が目に飛び込んできたのだから、嬉しいに決まってる。私もバック転しながら、羽を伸ばしてみたい。(悦代)

コメント: 8
  • #8

    ETSUYO (金曜日, 04 9月 2020 10:19)

    今年はセミへの思いいれが強すぎて、困ってます。食べるなんて!ベランダで死んでるセミは、乾燥しているせいか、劣化が進まず、生きてるみたいで中々捨てられない。夫は保存する?と言ってます。

  • #7

    Kyoko (木曜日, 03 9月 2020 19:24)

    NHKのホームページをみていたら、セミの話題が。セミを食べる人がいるそうです。専門家(?)によると、幼虫のエビチリ風がいけるとか。セミからの連想、いろいろですね。

  • #6

    Mariko (木曜日, 27 8月 2020 22:14)

    脱皮したてのセミ、予想外に可愛いですね! ビックリしました。ところで羽化寸前のセミって、取ってきて他のものにとまらせても大丈夫なんですね。これも驚きでした。
    ウチの方では今年はセミが少なかったように思いますが、来年はまたうるさいくらいに鳴いてほしいものです。

  • #5

    マリリン (木曜日, 27 8月 2020 10:54)

    確かに、私も家族以外で一番お会いしたのがセミなのは間違いないです(笑)でも、抜け殻をそこまでじっくり観察したことは一度もなかったな。みんな同じに見えました。そして、亡骸もたくさん見ました。セミの【一生】と、人の【一生】をほんの僅かに重ねながら。蝉しぐれは、大好きです。【ザ・夏】を感じることができるから・・・。そして、鳴き声の変化に、季節の移り変わりを感じる時が、何故か幸せな時間でした。平凡に・・・。

  • #4

    深川 和郎 (火曜日, 25 8月 2020 00:33)

    セミの抜け殻は生きてきた証で美しいですね。
    最近はなかなか見ることがなくなりました。

  • #3

    Hisako (月曜日, 24 8月 2020 17:15)

    私はセミに停まられる女。
    そんなどんくさい奴がいるのか?という声が聞こえてきそうですが、よろよろと飛んできたセミに停まられたことが何度かあります。それも歩いている時よ。
    なので、セミは大っきらいだったのですが、なんか愛おしくなってきた。
    それと同時に前向きな気持ちにも。
    人生、まだまだ。これからだねー。

  • #2

    ふみこ (日曜日, 23 8月 2020 22:40)

    45年ほど前に暗渠となった山谷堀。それからずーっと桜の並木道だった。大規模なリニューアル工事とやらで掘り起こして多くのセミを殺し木も減らし。その上に舗装までした2020。

    このセミの生き生きとした写真、いつまでも眺めていられます。ありがとう(^O^)/

  • #1

    ふみこ (日曜日, 23 8月 2020 21:38)

    セミの脱皮。十数匹をカーテンに登らせ大興奮で観ていた記憶が甦りました。脱皮途中で力尽きた数匹に自然の厳しさを思い知らされたな〜

    えっちゃんは素晴らしい出会いで良かった(ダンボの耳とはナイス!)